農業ではどんな事故が起きているか
農業では、どのような事故がおきているのでしょうか。平成13年から17年までの5年間の農業による労災事故、約100件を調べてみました。
事故原因としては高所での作業中の転落事故が多く、また、草刈機を使用中による事故が地域や作目、老若男女を問わず多く目立っています。
(1)(落下・転落)の例
- 梯子から足を滑らせて落下(60歳/男性)
- 高さ1mの収穫台から足を滑らせ転落(61歳/女性)
- せん定作業中、土岸から滑り落ちた(65歳/男性)
- 建築中の牛舎から足を滑らせ転落(49歳/男性)
- もみすり作業中、梯子から転落(24歳/男性)
- びわを取っているとき、枝から足を滑らせ落下(64歳/男性)
- 脚立に乗り農場内の木を剪定中、脚立が倒れた(50歳/女性)
- 荷物を車に積んでいる最中、誤って車から落ちた(57歳/男性)
(2)草刈機による例
- 草刈中、草刈機の刃が石をはねて足にあたった(26歳/男性)
- 草刈機が石に当たり、刃が破損してかけらが頭部に当たる(35歳/男性)
- 草刈機の刃を誤って右足親指に当ててしまった(21歳/男性)
- 草刈作業中、足を滑らせ、草刈機の刃で左上肩を切った(62歳/男性)
- 草刈機の刃を点検・修理中に誤って刃で左手小指を切った(67歳/男性)
- 斜面を草刈機で作業中、足を滑らせ転倒、草刈機が落ちてきて左手小指を切断(74歳/男性
- 草刈機で作業中、跳ね上がった石が左足脛に当たり、皮膚が陥没した(56歳/女性)
(3)機械による例
- 飼料かくはん機のコンベア部分に指を挟んだ(39歳/男性)
- グラインダーで農機具修理中、鉄粉が眼球に突き刺さる(48歳/男性)
- 農薬散布ラジコンが落下して膝に落ちた(35歳/男性)
- 飼料攪拌機の中で、刃を交換する作業中、転倒し左太股を刃にぶつけた(21歳/男性)
- トラクターの後部ユニットのスイッチが入っているのを知らず、誤ってロータリーに足を入れてしまった(26歳/男性)
(4)作業手順を守らなかった例
- 機械作動中に汚れを拭きとろうとして指を切断(24歳/男性)
- 電源を切らずに、汚れて動かなくなった機械(ベルトコンベア)の掃除をしていたところ、急に動きだして腕を巻き込まれた(64歳/男性)
- 濡れて動かなくなったコンベアを拭いているとき突然動き出して手を巻き込まれた(46歳/男性)
- 薬剤散布中、天井から垂れた薬剤が目に入った(59歳/男性)
- こんにゃく裁断機の調子が悪く、調べようとして蓋を開け左手を入れたところ、電源を切っていなかったため手が巻き込まれた(54歳/男性)
(5)職場の整備を怠った例
- 牛に餌をやっているとき、餌の下に倒れていたフォークを踏んだ(25歳/男性)
- かごを台車に積んで運んでいるとき、室内の突起物にかごが当たり崩れてきて頭に当たった(61歳/女性)
- 落ちていた釘を踏んだ(65歳/女性)
(6)家畜による例
- 種付け後に雄豚をストールに戻そうとしたところ、牙で右膝をひっかかれた(27歳/男性)
- 作業中、雄豚の牙が膝下に刺さった(41歳/男性)
- 雄豚をストールで洗浄中、突然、牙で左太股を突き刺した(47歳/男性)
- 牛舎内で注射をしようとして押さえつけていたところ、牛が興奮して走り出し、引っ張られて転んだ(20歳/男性)
- つなぎ場から離れている牛を捕まえようとしたところ、牛に胸を突かれて肋骨を骨折した(69歳/男性)
- 牛を引いている際、指にロープが巻きつき、そのまま引かれたため左人差指を負傷した(18歳/女性)
(7)うっかり不注意による例
- トラクターのサイドブレーキを掛け忘れていて、動きだして足を轢かれる(25歳/男性)
- 止まっているフォークリフトのつめ部に乗ろうとして滑って落ちた(52歳/男性)
- 後方からやってきたフォークリフトに気がつかず足を轢かれた(25歳/男性)
- 電気のこぎりで自分の膝を切る(25歳/男性)
- チェーンにエプロンが挟まり、引っ張られ、手を機械に挟まる(61歳/女性)
- 野菜カット中、指を切った(42歳/女性)
- トラクターから降りる際、飛び降りて左足を捻挫した(61歳/男性)
- バンパーの上に乗って家畜車を洗車していたところ、足を滑らせて落ちた(54歳/男性)
- 鎌で肥料の袋(ビニール製)を開けていたところ、誤って左手中指を切った(53歳/男性)
各種データ
(1)負傷者の性別(人)
| 男性 | 80 |
|---|---|
| 女性 | 24 |
| 合計 | 104 |
(2)負傷者の年齢(人)
| 年齢 | 人数 |
|---|---|
| 20歳未満 | 7 |
| 21~30歳未満 | 25 |
| 31~40歳未満 | 13 |
| 41~50歳未満 | 21 |
| 51~60歳未満 | 18 |
| 61~70歳未満 | 15 |
| 70歳以上 | 4 |
| 不明 | 1 |
| 合計 | 104 |
(3)事故の原因(人)
| 転倒・転落 | 26 |
|---|---|
| 機械・刃物の扱いミス | 18 |
| 物体の落下・飛来 | 15 |
| 機械に挿まれる | 9 |
| 自動車と接触 | 6 |
| 危険物を踏む | 2 |
| 物に追突 | 8 |
| 動物と接触 | 7 |
| 誤って飛び降りる | 2 |
| 虫に刺される | 2 |
| その他 | 9 |
| 合計 | 104 |
(4)屋内・屋外(人)
| 屋内 | 37 |
|---|---|
| 屋外 | 63 |
| 不明 | 4 |
| 合計 | 104 |
(5)作目(人)
| 水稲 | 20 |
|---|---|
| 露地野菜 | 3 |
| 施設野菜 | 13 |
| 果樹 | 6 |
| 花卉 | 1 |
| 酪農 | 7 |
| 肉用牛 | 12 |
| 養豚 | 16 |
| 養鶏 | 13 |
| 茶加工 | 6 |
| 乳加工 | 3 |
| 不明 | 4 |
| 合計 | 104 |
(6)負傷部位(人)
| 頭部 | 10 |
|---|---|
| 顔面(眼) | 4(6) |
| 頚部 | 11 |
| 腕 | 5 |
| 手・指 | 30 |
| 脚・足指 | 35 |
| その他 | 11 |
| 合計 | 112 |
(7)負傷状況(人)
| 打撲 | 17 |
|---|---|
| 捻挫 | 9 |
| 骨折 | 23 |
| 切り傷 | 30 |
| 擦り傷 | 6 |
| 火傷 | 4 |
| 指切断 | 3 |
| その他 | 17 |
| 合計 | 109 |
(8)入院日数(入院した者のみ:人)
| 5日未満 | 3 |
|---|---|
| 6日~9日 | 7 |
| 10日~19日 | 7 |
| 20日~29日 | 4 |
| 30日以上 | 10 |
| 合計 | 31 |
事故を防ぐために
農業に限らず、事故は毎日繰り返す作業のちょっとした油断から起きるものです。この業務中の事故は、作業手順を厳守することによってかなりの部分が防げるものです。たとえば電車やバスの運転手が行う「指差し確認」。はたから見ていると愚直なほどの丁寧さですが、万が一事故を起こすと大惨事になりかねない責任の重い仕事ゆえ、作業手順の厳守は徹底しています。業務中の事故は慣れた頃が一番起き易いといいます。いつもいつまでも初心を忘れず「指差し確認」を続けていく心得はどんな仕事をする上でも大切です。
安全配慮義務
安全配慮義務とは
「安全保証義務」「安全保護義務」ともいわれています。これは、使用者が労働契約上、労働者に対して負っている「使用者の設置にかかる場所、施設、器具等の設置管理、または使用者の指示のもとに行う業務管理にあたって、労働者の生命および健康などを危険から保護するよう配慮すべき義務」のことで、具体的には次のようになります。
- 物的・環境的危険防止義務
- 作業行動上の危険防止義務
- 作業内容上の危険防止義務
安全配慮義務違反とは
どんな事故が安全配慮義務違反となるのでしょうか。過去の判例により具体例を見てみましょう。
- 保護帽をかぶらず、溶解炉内壁の調査作業をしている際、落下物により労働者が頭部を受傷
理由:使用者は、安全対策上当然必要であると考えられる保護帽を備え付け、これを着用させるべき義務を怠った。 - 電力会社の保守役が架空高圧線の工事に従事中に感電死
理由:使用者は、労働者に十分な保護具を着用させていなかった。さらに安全教育も不十分であった。 - 砂利採取現場でダンプカーの車輪が玉石に乗り上げ、急激にハンドルを取られたため事故になった。
理由:使用者は、使用する車の性能に応じ、路面の整備をし、未然に事故を防止する義務を怠った。
労災保険に未加入中に従業員がケガをした場合
強制適用事業の場合
事業主が、労災保険の加入手続き(労災保険に係る保険関係成立届の提出)をしない間に、労働者が労災事故を被った場合であっても、基本的には、被災労働者は労災保険で治療を受けることはできます。ただし、事業主が故意または重大な過失(所轄労働基準監督署等から指導があったにも係らず加入手続きをしない等)により労災保険に係る保険関係成立届の提出を怠っていた期間中に発生した業務災害または通勤災害についてはペナルティがあります。
暫定任意適用事業の場合
農業のうち個人経営で従業員が5人未満、かつ危険・有害作業をともなわない事業所は、暫定任意適用事業といい、労災保険が任意加入となっています。そしてこの事業所が任意加入の申請をしていないために労災保険の適用事業所として認可を受けていないときは、その事業所で働く人々は労災保険による補償が受けられないことになります。
したがって、これらの事業所で働く労働者が万一業務上の災害で傷病を被ったときは、労働基準法による災害補償により、事業主が補償責任を果たすことになります。
労働安全衛生法
労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする法律です。労働安全衛生法では,労働災害により労働者が死亡、負傷または疾病により休業した場合に労働基準監督署への報告が義務づけられています。労働災害によって労働者が死亡した場合は、「業務上過失致死罪」に問われることがあります。
労働安全衛生法は、労働基準法と相まって、
- 労働災害の防止のための危害防止基準の確立
- 企業内または企業間における労働災害防止についての責任体制の明確化
- 企業における自主的活動の促進
など、働く人々の安全と健康を守るとともに、さらに進んで快適な職場環境をつくることを目的とし様々な安全管理・衛生管理を事業主に義務づけています。
