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人事評価制度

農業に適した人事評価制度とは

人事評価の目的

 人事評価とは、人事上の決定に必要な従業員の能力、適性、性格、成績等を把握するために行う評定のことで、目的は、昇給・給与の査定、賞与の査定、昇進・昇格の査定、能力開発、適正配置等があげられます。
 人事評価は、バブル経済崩壊後の厳しい労働環境が続く中、賃金体系が年功序列から成果主義へと移行するにしたがい、他者との比較による相対的な考課から客観的・合理的基準の達成度を重視する絶対的評価へ移行しています。
 農業の場合、作目等によって差があるものの、一般的にその多くが協同して行う作業であるため、他産業と比較し個人の仕事の成果や労働の質や量等を客観的に評価することは難しいのが現実です。また、そもそも収穫物の出来不出来が天候等に大きく左右される農業において、何をもって個人の成果とするのかという前提問題もあります。
 このように農業においては、その特殊性を考慮しつつ、成果や能力のほか、協調性、態度、熱意といった観点も含め多角的に評価することが、本人のやる気や意欲を引き出すうえで非常に重要です。

人事評価制度の役割

 人事評価制度は、人事評価をするためのツールです。「より良い雇用をするために」で述べたように、良い人材の確保・育成には公正な人事評価は必要不可欠です。

評価は従業員のやる気を創出する
 人事評価には大きく分けて2つの役割があると言われています。ひとつは、従業員のやる気(モチベーション)を創出するツールとしての役割です。

 このように人事評価の従業員のやる気を創出する役割には、「評価の結果の処遇」と「評価そのもの」の2面性があります。

評価はメッセージツール
 もうひとつの人事評価の役割は、従業員に対して「会社は、従業員に何を期待しているのか」を伝えるメッセージツールとしての役割です。

目標管理制度

 現在、規模の大小や業種を問わず、多くの会社が目標管理型の人事評価制度を使用しています。とくに、成果主義を取り入れている会社の7割がこの「目標管理制度」を使用していると言われています。
 目標管理制度の概要を簡単にいうと次のようになります。

 こうして概要を見ると、目標管理制度は、各個人の目標に対する成果によって人事考課を行うため、成果主義人事制度を行う上では客観的で理にかなった制度です。

通信簿評価制度

 目標管理制度は、たしかにきちんと運営されれば素晴らしい制度です。ところが、この制度がうまく機能している会社は実のところ非常に少ないのです。従業員自らに目標を設定させ、その達成度合で評価しようという制度ですから、目標そのものを達成可能な低い目標に設定(チャレンジ精神の低下)したり、組織の成果より個人の成果を重視(チームワークの低下)する傾向が強くなったりといろいろな問題や弊害が出てきます。
 また、目標管理制度は、制度そのものが複雑かつ大掛かりなため、制度を運営するうえで労使双方どちらにも大きな負担を強いることになり、小さな会社にはとくに不向きな制度なのです。
 私は、小さな会社に適した人事考課制度として「通信簿評価制度」を提案しています。この人事考課制度は、農業のように個人の「労働の成果」を客観的に判断することが難しい業種にはとくに向いている制度です。社員数が50人に満たない小規模の個人経営や農業法人の経営者であれば、従業員一人ひとりの顔や名前はもちろん、性格や日常の仕事内容、成績等まである程度把握できるものです。
 通信簿評価制度とは、従業員一人ひとりの日頃の働きを、半年に一度、社長自らが評価し、その結果を通信簿によって、社長自らが従業員に直接通知する制度です。

通信簿の内容

 下に通信用紙と人事評価シートを用意しました。ダウンロードして使用してください。 またPDFファイルには通信簿の記載例を用意しました。この通信簿はA3サイズの紙一枚を二つ折りしただけのとても簡単なものです。書式はもちろんのこと、評価項目や評価項目毎の配点等については、各々の会社で使いやすいようにアレンジするといいでしょう。
 ただし、評価項目を多くすると評価すること自体が面倒になり、通信簿の作成が億劫になりますので注意してください。

通信簿のつくり方

1.「通信簿」に記載する前に「人事評価シート」で各従業員の人事評価を行う。
 ①項目(「成果」「熱意」「協調性」「勤務態度」「能力」)ごとに着眼点評価をする。
 ②着眼点ごとに点数を記入し、区分(項目)の合計点を求め、合計点をもとに区分評価を求める。
2.「通信簿」に記載する。
 ①「人事評価シート」の区分評価から転記する。
 ②「なぜ」この評価になったのか、なるべく具体的に理由を記載する。

人事評価シート(様式)

通信簿用紙(様式)

 

通信簿の記載例
PDF:732KB

通信簿評価制度の流れ

通信簿評価制度の年間を通した流れは次のようになります。

(1)上期評価
【社長】10月初旬:従業員全員に対する4月から9月までの6ヶ月間の評価を行い、通信簿を作成し10月中旬(お盆休み前)までに一人ひとりに手交する。
【従業員】社長の評価に対する感想を通信簿に記載し、10月下旬に社長に提出する。

(2)下期評価
【社長】上期評価に対する従業員の感想をよく確認する。場合によってはそれをもとに従業員と個別面接の場を設ける。
4月初旬:従業員全員に対する10月~翌3月までの6ヶ月間の評価を行い、通信簿を作成する。

(3)年間総合評価
【社長】上期と下期の評価をよく検査・検討し、年間の総合評価を下記の手順で行う。
①評価項目ごとに評価を行う。
②評価項目ごとの評価点(イ)に評価項目ごとの率(ロ)を掛けてポイントを算出する。
③評価項目ごとの合計ポイント(ハ)を求める。
④合計ポイントを評価基準に当てはめ総合評価を導く。
⑤従業員一人ひとりの1年間の働きに対する評価を記載する。

(4)通信簿の手交
朝礼やミーティングの時間を使って社長から従業員一人ひとりに通信簿を手交する。
時期的にはできるだけ早い方がよく、できれば4月中旬までに手交する。

評価項目

評価項目は、成果、熱意、協調性、態度、能力の5つです。
各々ついて評価をするポイントは次のようになります。項目毎の配点は、経営者によって何に重きを置くのか等異なりますので各々で工夫してください。

【成果】

【熱意】

【協調性】

【勤務態度】

【能力】

評価

S(優れている)、A(良い)、B(普通)、C(芳しくない)、D(悪い)の5段階評価です。
社長は、各社員の各項目について、絶対評価で評価してください。

通信簿評価制度を運用する上での注意点

評価の理由は必ず記載する
 特にCやDの評価をした場合には、その理由を明確に記載することがとても重要です。CやDの評価は、評価を与えられた本人にしてみれば「標準以下」の烙印を押されたわけですから、その理由はどうしても気になります。たとえば、自分では熱意をもって仕事をしているつもりなのに、「熱意」の項目に、理由もなく、ただ単にEの評価をつけられたとしたら当然納得がいかないでしょう。
 したがって、CやDの評価を与える場合は、はっきりした理由が必ず必要となります。

社長が最終評価を下す
 評価を決定するのはあくまでも社長の仕事です。通信簿評価制度のイメージは小学校の担任教師が担当クラスの生徒一人ひとりの通信簿を作成して手交する姿です。従業員の少ない会社であれば、社長がまるで学校の担任教師のように従業員一人ひとりの通信簿を作成することはそれほど大変なことではないでしょう。
 ただ、職制は、一般従業員、管理職、役員、代表(経営者)という形の会社が多いでしょうから、一般従業員の評価をする際は、管理職と協議をし、管理職の評価をする際は、取締役会や理事会で協議して決定するという形がむしろ自然でしょう。

評価する際に陥りやすい傾向
 部下を評価する際に陥りやすい評価傾向があります。これは無意識のうちに陥る場合と、意識的に陥る場合とがあります。部下を評価する際、考課者はそれらの傾向や防止策を理解し、誤った評価をしないように注意する必要があります。

評価に対する感想には社長自ら必ず目を通す。

 通信簿評価制度の良いところは、この感想欄があるところです。社長は、従業員が自分の評価に対してどのような感想をもったのかを知ることが何より重要なのです。従業員によっては、社長から公正な評価を受けていないという感想をもつ者もいることでしょう。その場合、感想欄に評価の不満を述べるかもしれません。これは従業員とコミュニケーションを深める上ではむしろ喜ばしいことです。社長は、従業員の感想には必ず自ら目を通してください。

通信簿評価制度のメリット

 通信簿評価制度は、人事評価制度ですので、その目的は昇給、賞与の査定、昇進・昇格、能力開発、配置転換等、人事管理を行う上での判断材料の提供ですが、この通信簿評価制度には他の人事考課制度にはないさまざまなメリットがあります。

半年に一度の評価が従業員の「やる気」を創出する

 評価制度は、従業員のやる気を創出するツールであることは前に述べました。ところが、人事評価の作業は、年度末に片付けなくてはならない年中行事になってしまっており、「やる気を創出するツール」になっていないのが多くの会社の現状です。従業員は、「評価され認められることによって、自分の存在意義を確認し、動機づけられる」ものですから、たまに社長に直接声をかけてもらったり、褒められたりすれば、仕事に張り合いが出るというものです。
 通信簿評価制度では、従業員は半年に一度社長から通信簿という形で評価を受けることになるので、そのつど自分の存在意義を認知し、動機づけられることになります。

評価の基準を従業員に伝えることができる

会社が従業員を評価するポイントが明確になっているため、従業員は、会社が従業員に何を求めているのかを理解することができます。
会社の側からすると、会社が従業員に求めるものや評価の基準を社員に対して伝えることができます。

通信簿がコミュニケーションのツールとなる

 「はじめに」で述べたように、良好な労使関係を築くうえで最も大切なことは、日頃からの労使間のミュニケーションの積み重ねです。「通信簿」は一見、社長から従業員への一方的な通知のように見えますが、「評価に対する感想」を通して従業員の評価に対する考えを知ることができます。

 3 の評価に対する感想は、「評価に対する反論の機会が与えられている」という意味があり、実はこれが非常に重要なポイントです。社長は従業員の感想の内容によっては、従業員と直接話し合いをもつことが必要となる場合も生じるでしょう。社長の評価がいつも適当で理にかなっているとも限りません。評価に納得がいかず、「社長は誤解している」と訴える従業員もいるかもしれません。このような場合、社長と従業員が直接話し合うことによって二人の間の誤解の溝を埋めることができるかもしれません。このように通信簿は社長と従業員のコミュニケーションのツールになります。

実施が容易にできる

 多くの会社やコンサルタント会社がより「完成された」人事考課制度の作成にたゆまぬ努力を続けています。現在、人事考課制度の主流となっているのは目標管理制度ですが、ほとんどの会社で、その制度としての実態は形骸化しており「機能していない」といわれています。私自身、サラリーマン時代に目標管理制度の恩恵に与ったものとしてその理由は十分過ぎるほど理解できます。
 目標管理制度の欠点はいろいろありますが、第一に制度の運営それ自体が従業員に対して大きな労力を強いるという点があげられます。
 目標の策定の段階で十分な時間をかけて検討することができない

→目標設定が形式化
→評価も形式化
→制度が形骸化

 その点、通信簿評価制度は、労使双方に無理な負担を強いることがなく容易に実行することができる評価制度です。とくに従業員に対しては、基本的に日常の業務さえ行っていれば制度の運営にかかる労力というものはほとんどありません。管理ツールもほとんど必要としません。

日常の勤務態度等を知る客観的資料となる

 解雇に関しては、最高裁の判例で「解雇権濫用法理」が確立していましたが、労使当事者間に十分周知されていない状況にあったため、平成16年1月に労働基準法が改正され、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」ことになりました。(労働契約法が平成20年3月に施行したことにともない同法の16条に移管されました。)
 これは、たとえば会社が、従業員のAさんを「遅刻が多い。また上司の命令を聞かず、勤務態度も非常に悪い。その都度注意したり指導してきたが改善の見込みがない」という理由で解雇したとします。このとき、Aさんが「不当解雇で到底納得できない」と解雇を承諾しない場合は、この解雇が「客観的に合理的な理由があるか」「社会通念上相当であるか」問われるということです。
 具体的には、会社はAさんの「遅刻が多い」ことや「上司の命令を聞かず、勤務態度が非常に悪い」こと「その都度注意をし、指導や教育をしたが改善の見込みのない」こと等を客観的に証明する裏づけ資料が必要になります。
 仮にAさんの通信簿の「勤務態度」「協調性」等の欄に勤務態度が非常に悪いことが書かれてあり、評価も低く、かつAさんも感想欄でそれを認めているような場合にはAさんの「勤務態度が非常に悪い」ことを証明するひとつの資料になります。
 このように通信簿は従業員の日常の成績、勤務態度、能力等を知ることができる客観的な資料になります。

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