より良い雇用をするために
はじめに
規模の拡大や法人化に伴い、農業経営においては人材の育成・確保が急務となっています。一方、今後数年間の間に団塊の世代が順次定年を迎えることによる大量の労働力減少に対する対応や、これに景気回復も追い風になり、大企業を中心に人材採用意欲は高まっており、農業においては優秀な人材の確保がますます困難になることが予想され、他産業並み、あるいはそれ以上の労働条件や労務管理の手立てが急務となると言えるでしょう。
従来、家族経営が常識であった農業においては労務管理に対する意識はまだまだ低いと言わざるを得ません。しかし、家族以外の労働者を雇い入れたそのときから「会社経営的感性」が必須となります。農業に限らず「よい人材を雇用したい」と思わない経営者はいません。ここでは、よい人材を確保するためには何をすればよいのか考えてみたいと思います。
ところで、「会社」という言葉からイメージするのは、一般的には株式会社や有限会社ですが、当ホームページで「会社」という場合は、とくに定めない限り「個人経営・法人経営を問わず労働者を雇用しそのために労務管理を必要とする農業経営体」のことを指します。
よい人材を確保するためには
「事業は人である。良い物をつくる前に、まず良い人をつくるべき」とは、かつて経営の神様と言われた松下幸之助さんの言葉です。これは、「会社が長期的に伸びていくためには、良い人材を得ることが重要である」ということです。
規模や業種を問わず「より良い雇用」を望まない会社はなく、これは言葉を変えると「より良い人材を確保・育成したい」ということです。
それでは、「より良い人材を確保・育成するため」に、会社はいったい何をすれば良いのでしょうか。それは、「より良い人材」に選んでもらえる「より良い会社」になることです。
良い会社とは
この場合の「良い会社」とは、そこで働く従業員にとって「良い会社」という意味です。
それでは、「良い会社」とは、いったいどんな会社でしょうか。人によって、「有名な一流会社」であったり、「売り上げや規模の大きい会社」であったり、「風通しのいい会社」であったり、「従業員の定着率が高い=離職率が低い」会社であったり、と答えはまちまちです。人も羨む高給企業や誰もが名前を知っている有名企業に勤めている人が、必ずしも自分の会社を良いと思っているとは限りません。
働く者にとっては、「仕事」と「処遇」と「職場」の三つが良ければ、その会社は良い会社といって間違いないでしょう。
それでは、具体的に「良い仕事」、「良い処遇」、「良い職場」について考えてみましょう。
良い仕事とは
この場合の「良い仕事」とは、そこで働く従業員にとって「良い仕事」という意味です。
それでは、「良い仕事」とは、どんな仕事でしょう。当然いろいろな意見があるとは思いますが、私は、従業員が「胸を張って紹介できる仕事」は、その人にとって「良い仕事」だと思っています。胸を張って自分の仕事を紹介できる従業員は、自分の仕事に誇りを持っています。仕事に誇りを持っているということは、自分の仕事を「社会的に意義のある仕事」だと信じているということです。自分の仕事が「社会的に意義のある仕事」だと信じている 従業員は、経営者と経営理念を共有している従業員です。企業にとって、経営理念とは、経営者の「社会に貢献したい」という熱い志を明文化したものです。
従業員に「良い仕事」と思ってもらうことは、すなわち、従業員に「自分は仕事を通じて社会に貢献している」と思わせることなのです。
よい人材の確保・育成にとって、経営理念は欠くことのできないたいへん重要なものなのです。
良い処遇とは
従業員にとって処遇とは、賃金や昇級、適正な配置、役付等のことです。
「良い処遇」とは、いったいどんな処遇でしょうか。たとえば、従業員にとって、賃金はたくさんもらえればそれに超したことはありませんが、それは無理。それでは「いくら」なら「良い賃金」と言えるのでしょうか。たとえば、「自分の仕事内容に相応しい金額」と納得できる賃金は、その人にとって良い賃金と言えるでしょう。役付なども同様でしょう。
言い方をかえると、従業員が自分が会社から公正に評価されていると思うことができる場合にその処遇は良い処遇と言えるのです。もっと平たく言うと、公正な人事評価が行われている会社の処遇は「良い処遇」なわけです。
よい人材の確保にとって、公正な人事評価制度が運営されているということはたいへん重要なことなのです。
良い職場とは
「良い職場」とは、いったいどんな職場でしょうか。
私は、労使の間に強固な信頼関係が築かれている職場を「良い職場」と考えています。
それでは、どうすれば強固な信頼関係は築かれるのでしょうか。ひとつは、ルールが明確になっていて、労使双方がそのルールを守っていることです。ルールというのは、具体的には労働基準法等の法律や就業規則等の会社独自の規則です。従業員の経営者に対する不信の原因が、「年次有給休暇をくれないから」などというような話はどこにでもある話です。最近は、従業員の中にも労働基準法等に詳しい方が結構います。そして、これは若い方ほど顕著な傾向にあります。経営者が労働者保護を目的とするこの法律を守らなければ、従業員の不信感を買うのは目に見えています。
それでは、会社が労働基準法等の法律に則ってきちんと経営していれば、従業員は仕事時間中にも関わらず勝手に休憩を取ったり、ろくに仕事もせず、同僚とおしゃべりばかりしているような職場は「良い職場」と言えるでしょうか。こんな職場は、会社にとってはもちろんのこと、そこで働く従業員にとっても「良い職場」であるはずがありません。
職場というのは、複数の人間が協同して生活する場所ですから、従業員一人ひとりが自分の判断や思い込み等で行動することのないよう、従業員全員が守るべき一律のルールを定めて運用することが必要になります。職場において従業員が守るべきルールは、すなわち就業規則です。組織を円滑に運営する上で具体的なルールを定めておくことは欠かせません。できれば、労働者の人数にかかわらず就業規則は作成すべきでしょう。
よい人材の確保にとって、労使がともに労働基準法や就業規則等の基本的なルールを理解し遵守することがたいへん重要なことなのです。
また、「良い職場」の条件として福利厚生制度の充実があります。とりわけ法定福利厚生である労働保険(労災保険・雇用保険)と社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、従業員に安心して働いてもらうために加入は不可欠です。
「より良い会社」になるために
経営者であるあなたは、「農業は人気ないから」「うちは小規模経営だから」などど弱音を吐いて、初めから良い人材を諦めていないでしょうか。
今をときめく大企業だって、創業時はどこにでもある小さな町工場でした。そういうと、「大会社になるような会社の創業者は、皆カリスマ的な大人物だったのさ」という人がいます。
カリスマ的な大経営者もカリスマ性を生まれながらに備えていたわけではなく、長期間にわたる会社経営を通してカリスマになったのでしょう。町工場から一代で大企業を築いたカリスマ的な経営者に、従業員を大切にしなかった者はいません。最初に紹介した松下幸之助さんのように、企業の発展は人材がすべてであることを偉大な経営者たちは皆よく理解し、またそのためにあらゆる努力や投資を惜しまなかったのです。いうなれば、偉大な経営者たちは従業員を大切に扱ってきたからこそ、その従業員たちに「カリスマ」と呼ばれ尊敬されるようになったのです。
企業が発展するためには、より良い人材の確保・育成が何より大切なことであり、そのためには、より良い会社にならなければならず、具体的施策として、(1)経営理念の共有、(2)公正な人事評価、(3)法令等の遵守、が求められるのです。
